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福岡地方裁判所 昭和56年(ワ)2883号 判決

原告

日本電機産業株式会社

被告

相川祥法

ほか三名

主文

一  被告有限会社屋敷運送及び被告福山通運株式会社は各自原告に対し金一七七万一九〇〇円及びこれに対する昭和五五年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告有限会社屋敷運送及び被告福山通運株式会社に対するその余の請求並びに被告相川祥法及び被告神武裕平に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告と被告有限会社屋敷運送及び被告福山通運株式会社との間では原告に生じた費用の四分の一と被告有限会社屋敷運送に生じた費用の二分の一を被告有限会社屋敷運送の、原告に生じた費用の四分の一と被告福山通運株式会社に生じた費用の二分の一を被告福山通運株式会社の、その余を原告の各負担とし、原告と被告相川祥法及び被告神武裕平との間ではすべて原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

五  被告有限会社屋敷運送及び被告福山通運株式会社がそれぞれ金六〇万円の担保を供したときは、担保を供した被告に対する仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金三九三万三五八〇円及びこれに対する昭和五五年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(以上は、被告ら共通)

3  仮執行免脱宣言(被告有限会社屋敷運送)

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五五年一一月二八日午前一〇時三〇分ころ(以下「本件事故日時」という。)

(二) 場所 熊本市龍田町九州縦貫自動車道下り線(以下「本件道路」という。)一七〇キロポスト付近路上(白川橋上)

(三) 加害車及びその運転者

(1) 普通乗用自動車(熊五六そ七八七五)、被告相川祥法(以下単に「被告相川」という。)

(2) 普通貨物自動車(大阪一二か三一四〇)、西本次男(以下単に「西本」という。)

(3) 大型貨物自動車(熊一一か三〇二三)、大久保弘(以下単に「大久保」という。)

(4) 普通乗用自動車(福岡五六て一五六)、被告神武裕平(以下単に「被告神武」という。)

(四) 被害車及びその運転者

普通貨物自動車(福岡一一せ九一五一)、木村修(以下単に「木村修」という。)

(五) 事故の態様

被害車が、前記場所において、先行車が追突事故をおこしたため、停車していたところ、被害車に右(1)記載の自動車(以下「(1)車」という。)が追突し、次いで右(2)記載の自動車(以下「(2)車」という。)が被害車に追突し、更に右(3)記載の自動車(以下「(3)車」という。)が(2)車に追突し、更に右(4)記載の自動車(以下「(4)車」という。)が(3)車に追突し、それぞれ前車を追突の衝撃で順次前方に押し出し、それぞれ(2)車を更に被害車に衝突させた。

(六) 結果 原告所有の被害車が破損した。

2  被告らの責任

(一) 被告相川は、(1)車を運転中、前方不注視及び車間距離不保持の過失ないし、本件事故現場付近は白い霧のようなものが発生し前方の見通しが困難であつたから、前方に停止中の車両等を発見した場合にこれに衝突することなく停止できるよう減速すべきであつたのにこれを怠つた過失により被害車に追突した。

(二) 被告有限会社屋敷運送(以下単に「被告屋敷運送」という。)は、西本の使用者であるところ、西本は、被告屋敷運送の業務のため(2)車を運転中、被告相川の右過失と同一の過失により(1)車に追突した。

(三) 被告福山通運株式会社(以下単に「被告福山通運」という。)は、大久保の使用者であるところ、大久保は被告福山通運の業務として(3)車を運転中、被告相川の右(一)の過失と同一の過失により(2)車に追突した。

(四) 被告神武は、(4)車を運転中、被告相川の右(一)の過失と同一の過失により、(3)車に追突した。

(五) なお、被害車の破損のどの部分がいずれの追突により生じたものであるのかは不明である。

3  損害

(一) 被害車の修理代金(被害車の破損自体による損害) 一九三万八四八〇円

(二) 代車代等 一五九万五一〇〇円

原告は、被害車を用いて商品の運送を行つていたが、被害車が破損したため、他の自動車を借り入れあるいは運送会社に依頼してこれが運送を行わざるを得なかつた。右自動車の借賃及び運送料の合計である。

(三) レツカー車代 五万円

破損した被害車を事故現場から運搬するのに要した費用である。

(四) 弁護士費用 三五万円

4  よつて、原告は被告らに対し、不法行為による損害賠償として金三九三万三五八〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五五年一一月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告相川

(一) 請求原因1(一)(二)記載の日時・場所において事故が発生したこと、被告相川が(1)車を運転していたことは認め、(1)車が被害車に追突したことは否認する。

被告相川は、前記日時場所において、先行の淵上稔運転の大型貨物自動車(以下「先行車」という。)に自車前部を追突させて停車中の被害車を認め、ただちに右にハンドルを切つて被害車に追突することを回避した。その後、自車前部を被害車右後部側面に接触させたにすぎず、被害車の破損は、被害車の先行車への追突及び(2)車の被害車への追突により生じたものである。

(二) 請求原因2(一)、(五)の事実は否認する。

(三) 請求原因3の事実は不知。

原告は、被害車を修理しているから、その車両損害は、被害車の事故直前の価格から事故後の価格を控除したものである。

2  被告屋敷運送

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 請求原因2(二)の事実のうち被告屋敷運送が西本の使用者であり、西本が被告屋敷運送の業務として(2)車の運転中であつたことは認め、西本の過失は否認する。同2(五)の事実は争う。

(三) 請求原因3の事実は不知。

3  被告福山通運

(一) 請求原因1の事実のうち、(一)(二)の日時・場所において事故が発生したこと、大久保が(3)車を運転していたこと、木村が加害者を運転していたことは認め、(3)車が(2)車に追突したことは否認し、その余は不知。

(3)車は、その車体右側部が(2)車の左後部角に接触したことはあるが、この接触により(2)車を前方に押し出し更に被害車に衝突させたことはない。仮に、右接触により(2)車が前方に押し出され被害車に衝突したとしても、その衝突によつては被害車は何らの損傷も受けていない。

(二) 請求原因2(三)の事実のうち、大久保が被告福山通運の使用人であり、被告福山通運の業務として(3)車を運転していたことは認め、大久保の過失は否認する。同2(五)の事実は否認する。

(三) 請求原因3は争う。

(1) 原告は被害車を修理せず、他に売却しているのであるから、被害車の被損による被害車自体の損害額は、被害車自体の事故当時の価格(一八三万六〇〇〇円)からその売却価格(五〇万円)を差し引いたものである。

(2) 原告は、事故後四か月を経た昭和五六年三月三〇日になつて被害車の代りの貨物自動車を購入しているが、遅くとも昭和五六年一月九日までには、右自動車を購入するなり被害車を修理するなりすることができたはずであるから、昭和五六年一月九日以降の代車代は本件事故と因果関係がない。

また、代車として運送会社に運送を依頼した場合、その代金のうちにはガソリン代、運転手の日当、高速道路の通行料等も含まれるが、これらは被害車を用いて運送した場合にも原告が負担すべきものであるから、代金中右に相当する部分は原告の損害とはならない。

4  被告神武

(一) 請求原因1の事実のうち、(一)、(二)、(三)、(四)、(六)の事実及び(五)の事実のうち(4)車が(3)車に追突した事実は認め、その余は否認する。

(4)車が(3)車に追突した衝撃の程度はさして大きくなく、これにより(3)車を前に押し出たことはない。したがつて、右の衝撃が順次前方に伝えられて原告車を破損したこともない。

(二) 請求原因2(四)、(五)の事実は否認する。

(三) 請求原因3の事実は不知

三  被告屋敷運送及び被告福山通運の主張

被害車を運転していた原告の被用者たる木村が、前方不注視及び車間距離不保持の過失により、進路前方に停止していた自動車に被害車に自車を追突させ、被害車を走行車線を塞ぐ形で停車させたことも、本件事故の一因となつており、原告の損害額の算定に当たつては、原告の被用者たる木村の右過失も斟酌されるべきである。

四  被告屋敷運送及び被告福山通運の主張に対する認否

争う。

第三証拠

記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるからこれらを引用する。

理由

一  本件事故日時に、熊本市龍田町の本件道路一七〇キロポスト付近路上(以下「本件事故現場」という。)において、被告相川運転の(1)車、西本運転の(2)車、大久保運転の(3)車、被告神武運転の(4)車、木村運転の被害車等を当事者とする交通事故(以下「本件事故」という。)が発生したことは原告と各被告ら間で争いがない。

二  右事故の態様等について検討する。

1(一)  いずれも成立に争いのない甲第二、第三号証、同第四号証の一ないし三、乙第二ないし第四号証、丁第二号証の一、二及び丁第八号証並びに証人木村修の証言を総合すると次の事実を認めることができる。

すなわち、原告の被用者であつた木村は本件事故日時、本件道路(当時、付近の天候は小雨で、路面はぬれていた。)の走行車線を原告の業務として熊本方面に向けて時速八〇キロメートルで被害車を運転中、本件事故現場付近に白い霧のようなものが発生しているのを認めたが、時速五、六〇キロメートルに減速したのみで右霧のようなものの中に入り、約二〇メートル進んだときに前方約一六メートルの地点に事故をおこした大型貨物自動車(先行車)が停止しているのを発見し、左にハンドルを切るとともにブレーキをかけたが間に合わず、被害車の右フエンダーミラーを右大型貨物自動車の左後部に衝突させ、被害車はやや左前方を向いた姿勢で停止した。その後木村は、被害車の運転席にいると、まず体が前にカクツと動く程度の衝撃を受け、更にその直後、被害車が前方へ押し出されてコンクリート壁に衝突し、被害車のキヤビンが前方へ倒れるほどの強い衝撃を受け、その直後にも強い衝撃を受け、被害車は、最終的には当初の停止地点から約六・七メートル前方へ押し出された。

(二)  いずれも成立に争いのない乙第五ないし第七号証、前出丁第二号証の一、二、甲第四号証の三及び被告相川本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。すなわち、被告相川は、本件事故日時、本件道路を熊本市方向に向けて時速約一〇〇キロメートルで(1)車を運転し走行していた際本件事故現場付近に白い霧のようなものを認め、時速約五、六〇キロメートルに減速してこの霧のようなものの中に入つて間もなく、前方約二〇メートルの地点に被害車が停止しているのを認め、右にハンドルを切つて避けようとしたが、(1)車の左側屋根付近を被害車の右側部に接触させ、更に追越車線に停止していた二台の大型貨物自動車(一台は被害車が接触した車)の右後部及び左後部に追突させ、被害車の右側に被害車と接触することなく、停止した。その後被告相川は、(1)車の運転席に乗つていたところ、三回の強い衝撃を受け、いずれのときにも(1)車は前方に押し出された。なお、被告相川は被害車との接触による衝撃を感じず、被害車との衝突を避け得たと思つていたが、警察や検察庁での取調べの際、被害車の車体右側面及び底面に(1)車の色と同じ白い塗膜片のついた擦過痕があることを示されてはじめて、被害車と接触したことを知つた。

成立に争いのない甲第一号証中には、(1)車の被害車に対する衝突は、木村に加療約四週間を要する負傷を負わせるに足りる程度のものであつたかの如き記載があるが、これは甲第一号証を作成した警察官らの判断にすぎないところ、この判断を首肯させる証拠はないから、同号証も右認定を左右するに足りない。

(三)  いずれも成立に争いのない丙第二(丁第七)、第三(丁第六)号証及び丁第一号証並びに証人西本次男の証言を総合すると次の事実を認めることができる((2)車が(1)車に衝突したことは原告と被告屋敷運送の間で争いがない。)。

すなわち、西本は、事故日時に、本件道路の走行車線を熊本市方向に時速約八〇キロメートルで運転していたところ、本件事故現場付近に白い霧のようなものが発生しているのを認めたが、時速六、七〇キロメートルに減速して霧のようなものの中に進入した。すぐに西本は、前方約二〇メートルの地点に数台の車が止まつているのを認めてブレーキをかけたが、(2)車の左前部を被害車の後部に追突させ、次いで(1)車に追突してこれを巻き込み、更に(1)車が追突していた二台の大型貨物自動車にも追突して停止した。その直後、西本は、(2)車が追突をされる衝撃を二回ぐらい感じた。

(四)  前出丁第一号証、いずれも成立に争いのない丁第三ないし第五号証及び証人大久保弘の証言を総合すると次の事実を認めることができる。

すなわち、大久保は、事故日時に本件道路の走行車線を熊本市方向に時速約七三キロメートルで(3)車(積載量一〇五〇〇キログラム)を運転していたところ、本件事故現場付近に白い霧のようなものが発生しているのを見つけたが、そのままこのの霧のようなものの中に進入した。すぐに大久保は前方約二〇メートルの地点に自動車が停止していることを発見し、ブレーキをかけると左にハンドルを切つたが、(3)車の車体右側運転席付近から後方を(2)車の左側後部角に衝突させて、すりながら左斜め前に進み、(4)車の左前角部を白川橋の欄干に打ちあてて停止した。大久保は、その後、続けて二回(3)車後方に何かが衝突した衝撃を感じた。最初の衝撃はたいしたことはなかつたが、二回目の衝撃はひどく(4)車の後部が右に跳ねられるような感じを受けるほどのものであつた。

(五)  いずれも成立に争いのない甲第二七(戊第二)号証及び戊第一号証、前出丁第一、第三号証並びに報告神武本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。

すなわち、被告神武は、本件事故日時に、本件道路の走行車線を熊本市方向に時速約九〇キロで(4)車を運転していたところ、本件事故現場付近に白い霧のようなものが生じていることを認めたが、時速約八〇キロメートルに減速しただけで右霧のようなものの中に進入した。その直後、被告神武は、その前方約四一メートルの地点に(3)車が、その右前方の追越し車線上にも貨物自動車が停止しているのを認め、ブレーキをかけたが、間に合わず(4)車の前部を(3)車の左後輪付近に衝突させて(4)車を停止させた。その直後、後方から来たマイクロバス(以下このマイクロバスを「(5)車」という。)が(4)車の左車体と接触しながら(3)車に激しい勢いで衝突した。

2  以上の各事実を前提に、(3)車の(2)車への衝突、(4)車の(3)車への衝突による衝撃により、再び(2)車を前方に押し出し被害車を破損したか否かについて検討する。

(一)  次の(1)ないし(3)を総合すると(3)車の(2)車への衝突によつて、(2)車は前方へ押し出され、被害車を破損し、又はその損傷を拡大したものと認めるのが相当であり、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 木村がその前車に接触し、被害車を停車させた後受けた衝撃のうち、体が前にカクツと動く程度の衝撃は(二)認定の事実によると(1)車の接触による衝撃であり、その直後の被害車が前方へ押し出されてコンクリート壁に衝突し、キヤビンが前方へ倒れるほどの衝撃は(三)の事実によると(2)車の衝突による衝撃であることは明らかであるから、その直後に受けた強い衝撃は、(3)車の(2)車への衝突による衝撃であるか、(4)車又は(5)車による(3)車への衝突による衝撃のいずれかであるところ、後記(二)の理由により(4)車の(3)車への衝突の衝撃とは考えにくく、次の(2)の理由により(5)車による(3)車への衝突による衝撃よりは(3)車の(2)車による衝撃の蓋然性が高いこと

(2) 被害車と接触した後その右横に停止した(1)車に乗つていた被告相川は、その後三回強い衝撃を受け(1)車を前に押し出されているが、このうち最初の衝撃が(2)車の衝突によるものは明らかであり、最後のものは、後記(二)の理由により(4)車の(3)車への衝突が更にその前々車にまで伝わるとは考えにくく、むしろ(5)車の(3)車への衝撃が伝わつたものと考えるのが相当であるから、その中間の衝撃は、(3)車の(2)車への衝突の衝撃が伝わつたものであると考えられる。そうだとすると、(1)車の横に停止していた被害車にも同じ衝撃が伝わつている蓋然性は高いこと

(3) (3)車は、(2)車まで約二〇メートルの地点まで時速約七三キロメートルという高速で走行しており、(2)車に衝突の時点では路面がぬれていることも考慮すると未だ相当のスピードであつたと推認することができ、(3)車が積載量一〇五〇〇キログラムという大型貨物自動車であることをも併せ考えると、衝突の態様が(四)認定のようなものであつても(2)車を前方に押し出すに十分な衝撃を与えたのではないかと考えられること

(二)  (4)車の(3)車の衝突による衝撃により、(3)車及び(2)車を前方に押し出したと認めるに足りる証拠はない。

かえつて、

(1) (4)車は前方約四一キロメートルの地点で(3)車を発見してただちにブレーキをかけており、その時点の時速が約八〇キロメートルで路面がぬれていたことを考慮に入れても、(3)車に衝突するときには相当速度は落ちていたと推認できること

(2) (3)車の運転手であつた大久保自身(4)車の追突による衝撃は軽く感じていること

(3) 前出丁第三号証による(4)車の衝突による(3)車の破損程度は小さいと認められること

を総合すると、(3)車が(4)車に衝突した力は強いものではなかつたと思われ、これに(3)が積載量一〇五〇〇キログラムの大型貨物自動車であるのに対し、(4)車は普通乗用自動車であることをも考慮すると(4)車の衝突により(3)車はその位置を動かされなかつたのではないかとすら思われる。

前出丁第八号証中には、(3)車が(4)車の衝突により後部で約四・二メートル前方へ押し出された旨の記載があるが、これは同号証を作成した警察官らの判断であるところ、(5)車の衝突を考慮に入れておらず採用できない。また、前出乙第三号証中には、右(一)の(2)車による衝突による衝撃の直後にもたて続けに衝突して来たという感じで衝突を受けた旨の部分があるが、同号証中には、この衝突の際の衝撃については特に感じなかつた旨の記載があり、前出乙第二号証中には、(2)車の衝突による衝撃の直後二、三回衝突の音を聞いた旨の部分があり、被害車が衝突されたものか他の衝突音を聞いたにすぎないのか判然とせず、これをもつて、(4)車の(3)車への衝突により(3)車及び(2)車が順次前に押し出され被害車を破損したと認めるには足りない。

したがつて、原告の被告神武に対する請求はその余について判断するまでもなく理由がない。

3  前出丁第二号証の一、二、乙第二号証及び原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると原告所有の被害車は本件事故により使用不能な程度にまで破損されたことが認められる(本件事故により原告所有の被害車が破損されたことは原告と被告屋敷運送の間では争いがない。)

しかしながら、前1(二)の認定のとおり(1)車の衝突により被害車が受けた損傷は車体右側面及び底面の擦過痕であるから、(1)車の衝突と被害車が使用不能となるような損傷とは因果関係がないと言わざるを得ず、右擦過痕による損害額について何らの立証もないから、その余について判断するまでもなく原告の被告相川に対する請求は失当である。

前1(一)、(三)2(一)(1)認定の事実に照らすと(2)車の衝突により(又はその後の(3)車ないし(5)車の衝突とも含まつて)被害車が右のように破損したことは明らかである。

また、(3)車の(2)車への衝突と(2)車を押し出してその衝撃を(1)車に伝えたその衝撃も、前出乙第三号証によると木村が頭にジーンと感じる程度のものであり、かつ同一の衝撃により被害車の右に停止していた(1)車は更に前方へ押し出されているのであるから、相当程度の強さのものであつたと考えられ、(2)車の衝突による衝撃ほどではないにしろ被害車の破損に相当程度寄与していると認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、(2)車によるものと(3)車によるもののいずれの衝撃により、被害車のどの部分が破損し、またその破損をどの程度拡大したのか等は不明であると言わざるを得ない。

三  前出の各証拠(丁第一号証、第二号証の一、二、第八号証を除く)によると、本件事故日時、本件事故現場付近は白い霧のようなものが発生し前方の見通しが極めて困難であつたこと、西本及び大久保は、右の霧のようなものに気がついていたことが認められる。そうだとすると西本及び大久保は、右の霧のようなものの中に進入する際には、その中の状況が判明しなかつたのであるから、不測の事態に対応できるよう減速しておくべきであつた。それにもかかわらず、被告相川、西本及び大久保は前二1(二)、(三)及び(四)認定のとおり、わずかしか減速せず又は全く減速しなかつた。したがつて、(2)車が被害車に、(3)車が(2)車にそれぞれ衝突したのは、西本及び大久保の過失によると言うべきである。

被告屋敷運送が西本の使用者であり、西本が被告屋敷運送の業務として(2)車を運転していたことは原告と被告屋敷運送との間に争いがなく、被告福山通運が大久保の使用者であり、大久保が被告福山通運の業務として(3)車を運転していたことは、原告と被告福山通運の間に争いがない。

そして、被害車の破損が(2)車の衝突、(3)車の((2)車への)衝突(とその衝撃による(2)車の押し出し)のいずれによりてどの程度生じたのか不明というのであるから、結局被告屋敷運送及び被告通運は、それぞれ民法七一五条、七一九条一項後段により原告の受けた損害全額について賠償する責を負う。

四  原告の被つた損害について判断する。

1  車両損害 一三三万六〇〇〇円

原告代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認める甲第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める丁一〇号証及び丁第一一号証の一、二(ただし、大阪弁護士会の受付印の成立は当事者間に争いがない。)によると、被害車の本件事故当時の推定価格は一人三万六〇〇〇円であるのに対し、被害車の修理代金の見積額は一九三万八四八〇円であること、原告は被害車を修理せず、新しい車を買い入れ、被害車は五〇万円で売却(下取り)していること、が認められる。

右のように、破損した自動車を修理することなくこれを売却した場合において、本件のように修理費用相当額が自動車の時価より高額なとき(経済的には修理不能とも言い得る。)は、自動車の事故前の時価から売却価額を控除した金額をもつて、車両の損害と認めるべきである。

したがつて、本件における被害車の破損による車両損害は、事故前の推定時価一八三万六〇〇〇円から売却価額(下取り評価額)五〇万円を控除した一三三万六〇〇〇円と認めるべきである。

2  代車代 二二万五九〇〇円

原告代表者本人尋問の結果によると、原告会社は本件事故前に所有していたトラツクは小型のものを除くと被害車一台であり、これを用いて原告会社の製品の配達を行つていたところ、被害車が本件事故により破損したため、右配達を運送会社に依頼し、あるいはレンタカーを使用せざるを得なかつたことが認められる。

一方、原告代表者本人尋問の結果及び前出甲第五号証によると、原告会社は昭和五五年三月ころ被害車を二三〇万円で購入したものであること、昭和五五年一二月二二日に被害車の見積額一九三万八四八〇円の修理見積書を受け取つていること、昭和五六年三月三〇日に被害車の代わりとなる貨物自動車を購入していることが認められるところ、原告会社としては、右見積書を受け取つた時点で被害車が経済的には修理不能と判明したと言い得る。そして、原告が、被害車のような貨物自動車を営業上必須とするのであれば、三か月余も放置するのではなく、ただちに代わりの貨物自動車を購入すべきであり、かつそれが困難な事情は何ら認められない。そうすると、遅くとも昭和五六年一月はじめころには代わりの車を購入することが可能ではなかつたかと思われるので、代車代としては、昭和五五年一一月分と一二月分のみを本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

原告代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認める甲第六ないし第八、第二二号証によると、原告は本件事故後、昭和五五年一一月分及び一二月分の製品等の運送賃として運送会社に合計三八万四〇〇〇円を支払つている事実を認めることができる。このうち(1)同年一二月八日の小郡市への運送賃三万八〇〇〇円、(2)同月一〇日の直方市への運送賃一万五〇〇〇円、(3)同月一一日の八幡病院への運送賃中二台分三万六〇〇〇円、(5)同月二〇日の熊本への運送賃計二万八〇〇〇円については、それぞれ次の理由により本件事故とは因果関係が認められない。

(1)  甲第六号証によるといわゆる六トン車を用いての運送であることが認められ、いわゆる四トンロング車である(原告代表者本人尋問の結果による。)被害車では運び得なかつた物品を運送したのではないかと思われる。

(2)  甲第六号証によると同日にもう一台が日南まで運送しており被害車があれば運送賃が高くつく日南への運送を被害車を用いたと考えられ、被害車があつてもこれによる運送は不可能であつた。

(3)  前日、右(2)のとおり被害車が日南に運送していれば、この運送に携わることができなかつたのではないかと思われる。

(4)  甲第七号証によると三台を同時に用いての運送と思われ、二台分は被害車による運送は不可能であつた。

(5)  甲第六号証によると同日もう一台が熊本及び八代に運送しており、運送賃の最も高額な熊本及び八代への運送を被害車が行つたとすると、同日の他の熊本への運送は不可能(県庁への運送は必ずしも熊本、八代への運送と両立しないものではない。)であつた。

したがつて、右三八万四〇〇〇円から(1)ないし(5)の合計を控除した二五万一〇〇〇円が本件事故により支出を余儀なくされた金員であるところ、一方原告は、運送に被害車を用いないことにより燃料費等の支出を免れているから損害額の算定に当たつてはこれを考慮すべきところ、右運送賃の一割を相当とする。

よつて、代車料としては二五万一〇〇〇円の九割、二二万五九〇〇円を本件事故による損害として相当と認める。

3  レツカー車 五万円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二三号証によれば、使用不能となつた被害車を事故現場から運搬するためのレツカー車代として五万円を要したことが認められる。

4  被告屋敷運送及び被告福山通運の過失相殺の主張について

前記二1(一)及び三認定の事実及び説示に照らすと、木村も、西本、大久保らと同様の過失により被害車を前方の大型貨物自動車に接触せしめ本件事故現場の走行車線に停止させていたことが認められるが、右過失がなかつたとしても、前方の大型貨物車も事故により停車していたのであるから被害車は本件事故現場に停止を余儀なくされつつ路側帯に移動するいとまもなく(1)車及び(2)車に衝突されたと認められるから、被害車が木村の過失により前方の大型貨物自動車と接触して走行車線に停止していたことを被告らの関係では斟酌すべきでないと解せられる。

5  弁護士費用 一六万円

本件事故と因果関係のある弁護士費用としては金一六万円を相当とする。

五  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告屋敷運送及び被告福山通運ら各自に対し金一七七万一九〇〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五五年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、右の被告らに対するその余の請求並びに被告相川及び被告神武に対する請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条に、仮執行の宣言及びその免脱宣言について同法一九六条にそれぞれ従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 水上敏)

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